「10年後、自分はどんな仕事をしているのだろう?」
生成AIを使うようになってから、そんなことを考える機会が増えました。
少し前まで、AIは一部のITエンジニアや専門家が使うものだと思っていました。ところが今では、文章を書く、情報を整理する、アイデアを出す、資料を作る、データを分析するなど、これまで人間が行ってきた仕事のさまざまな場面に生成AIが入り込んでいます。
しかも、変化はまだ始まったばかりです。
今回読んだのは、木内翔太さんが書かれた『AIのド素人ですが、10年後も仕事とお金に困らない方法を教えてください!最悪の未来でも自分だけが助かる本』。
かなり刺激的なタイトルです。
「AIのド素人でも、本当に10年後まで大丈夫なのか?」
「AIを使えない人は、これから仕事で活躍できなくなるのか?」
「AIを副業やキャリアにどう結びつければいいのか?」
本書を読んで感じたのは、AIについて難しい技術を身につけること以上に、「自分の専門性や経験にAIを掛け合わせる」という発想が重要になるということでした。
この記事では、本書から学んだことを5つの視点に整理し、AI初心者の会社員がこれから何を始めればいいのかまで考えてみます。
AIを使えるかどうかが「仕事の前提」になる
本書の主張の中でも、最も刺激的だったのが、
上流の経営幹部や社長も含めて、生成AIを使わなければ「オワコン人材」になる
というメッセージです。
「オワコン」という表現には強さがあります。
私は、この言葉をそのまま受け入れる必要はないと思っています。AIを使っていない人が、ただちに価値のない人材になるわけではありません。
しかし、問題提起としては理解できます。
なぜなら、AIによって仕事の「当たり前」が変わり始めているからです。
たとえば、これまで1時間かけていた情報整理をAIで短時間に済ませられるようになれば、AIを使う人と使わない人では、同じ勤務時間でも仕事の進め方に差が生まれます。
文章作成、議事録の整理、メールの下書き、資料の構成、アイデア出しなども同じです。
ここで重要なのは、
「AIに仕事を奪われるか」だけを心配するのではなく、「AIを使って自分の仕事をどう変えるか」を考えること
です。
AIは、人間の仕事を丸ごと奪うというより、仕事の中に含まれている作業を一つずつ変えていく可能性があります。
だからこそ、AIを使うことは、特別なスキルではなく、これからの仕事をするうえでの基本動作になっていくのだと思います。
これからの武器は「専門スキル×生成AI」
では、AIを学べば、それだけで市場価値が高くなるのでしょうか。
私は、本書を読んで「AIだけでは足りない」と感じました。
重要なのは、
専門スキル×生成AI
という掛け算です。
たとえば、営業の経験がある人なら「営業×AI」。
人事の経験がある人なら「人事×AI」。
経理なら「経理×AI」。
ライティングなら「文章×AI」。
マーケティングなら「マーケティング×AI」。
この考え方なら、AI初心者でも自分のキャリアをゼロから作り直す必要がありません。
これまで身につけてきた専門性を土台にして、そこへAIという新しい道具を加えればいいからです。
私はここが、50代以降の会社員にとって特に重要なポイントだと思います。
若い人と同じように、AIの最新情報を追いかけ、プログラミングを一から学び、AIの専門家になる必要はありません。
むしろ、長年仕事をしてきた人には、若い人にはない資産があります。
業界の知識。
顧客との関係。
社内調整の経験。
過去の失敗。
専門知識。
仕事の勘所。
こうした経験は、AIそのものにはありません。
だから、
「AIを学んで自分を作り直す」のではなく、「これまでの自分にAIを掛け合わせる」
という発想が現実的です。
これは、AI時代のリスキリングを考えるうえで、かなり重要な視点だと思います。
AIスキルを身につけると、仕事の「苦手」が変わる
本書では、AIスキルを身につけるメリットとして、業務生産性の向上、キャリアアップ、苦手な作業からの解放、副業・フリーランスへの展開、好きなことに使える時間の増加などが挙げられています。
この中で私が特に注目したのは、
「苦手な作業からの解放」
です。
仕事には、誰にでも苦手な作業があります。
文章を書くのが苦手。
アイデアを出すのが苦手。
情報を整理するのが苦手。
最初の一文が書けない。
資料の構成が決まらない。
こうした「ゼロから一人で考える作業」は、意外と時間がかかります。
そこでAIを壁打ち相手にする。
たとえば、
「このテーマについて、読者が疑問に思いそうなことを10個挙げてください」
「この文章の論点が分かりにくいところを指摘してください」
「このメモから記事構成を作ってください」
と頼む。
最終的な判断や編集は自分で行いますが、最初の一歩をAIに手伝ってもらうだけでも、仕事の進め方は変わります。
私自身、ChatGPTを使って記事のアイデアを出したり、構成を考えたり、文章を改善したりするようになって、「一人で白紙から考えなければならない」という感覚がかなり変わりました。
もちろん、AIが最初から完璧な文章を出してくれるわけではありません。
むしろ、最初の回答には「ここは違う」「この表現は自分らしくない」と感じる部分もあります。
だからこそ、AIとのやり取りを繰り返しながら、自分の考えを具体化していく。
この使い方をしていると、
AIは「答えをくれる機械」ではなく、「自分の思考を前に進める相手」
だと感じるようになりました。
AIを学ぶなら「情報収集→実践→仕事」に変える
AIについて勉強しようと思ったとき、多くの人が最初にやるのは情報収集です。
YouTubeを見る。
本を読む。
SNSで最新情報をチェックする。
AI関連のニュースを読む。
もちろん、それも必要です。
しかし、情報を集めるだけでは、AIは使えるようになりません。
本書が示す「AIキャリアロードマップ」は、
目標設定 → 情報収集 → 実践 → 営業 → マーケティング
という流れです。
この順番には意味があります。
まず、
「AIを使って何をしたいのか」
を決める。
本業を効率化したいのか。
キャリアアップしたいのか。
副業を始めたいのか。
将来の仕事をつくりたいのか。
目的によって、学ぶべきAIも変わります。
次に情報を集める。
そして、実際に使う。
ここが重要です。
「知っている」と「使える」は違います。
AIの解説動画を100本見ても、自分の仕事で一度も使わなければ、実践的なスキルにはなりません。
だから、最初は小さく使ってみる。
メールの下書きを作ってもらう。
会議の論点を整理してもらう。
文章を要約してもらう。
自分の仕事の改善案を出してもらう。
そして、
「この使い方は便利だ」
「ここは間違っている」
「こう指示したほうがいい」
と試行錯誤する。
この繰り返しがリスキリングになります。
本書が示す、
「情報の重要性×実践の重要性×環境の重要性」
という考え方は、ここにつながっています。
学ぶだけではなく、実践する。
さらに、継続的に使える環境をつくる。
AI時代の学びは、この3つをセットにすることが重要です。
ChatGPTを使いこなすための5つの基本
本書には、ChatGPTを上手に使うための具体的なテクニックも紹介されています。
特に初心者が覚えておきたいのは、次の5つです。
- ChatGPTに役割を与える
- 具体的に入力する
- 入力文を構造化する
- 処理のプロセスを指示する
- 否定文ではなく、代わりにしてほしいことを命令する
たとえば、「記事を書いてください」だけでは、AIが何を目指せばいいのか分かりません。
「50代会社員向けの記事です」
「読者の悩みは○○です」
「5,000文字程度です」
「具体例を3つ入れてください」
「最後に今日からできる行動を示してください」
など、条件を具体化するほど、自分の求める方向に近づけやすくなります。
ここで大切なのは、プロンプトを「AIへの呪文」と考えないことです。
本質は、
自分が何を求めているのかを言語化する作業
だからです。
これはAIを使う以前から、仕事のできる人が自然にやっていたことでもあります。
目的を明確にする。
条件を整理する。
順番を決める。
完成形を伝える。
AI時代になったことで、この能力の価値がより分かりやすくなったのだと思います。
AI副業は「AIを使える」だけでは稼げない
本書には、AI副業につながる考え方も紹介されています。
AIを使えば、副業やフリーランスとして活躍できる可能性が広がる。
これは確かに魅力的です。
ただし、ここには注意が必要です。
「AIを使えば簡単に稼げる」という意味ではありません。
AIを使って文章を大量に作れるようになったとしても、それだけで仕事が舞い込んでくるわけではありません。
画像を作れても、顧客がいなければ売上にはなりません。
AIで資料を作れても、「誰のどんな問題を解決するのか」がなければサービスにはなりません。
だからAI副業で重要なのは、
AIスキル×専門性×顧客の課題
です。
さらに、本書が示すように、目標設定、情報収集、ネットワーク、実践が必要になります。
そして最後に営業やマーケティングがある。
ここを飛ばして、
「AIを覚えれば副業で月○万円」
と考えるのは危険です。
AIは、稼ぐための魔法ではありません。
仕事の生産性を高め、新しい価値をつくるための道具
と考えたほうが、現実的です。
AI時代だからこそ「人間力」が重要になる
AIの能力が高くなるほど、人間の価値は下がるのでしょうか。
私は、むしろ逆の部分があると思います。
本書では、純粋な生産活動が生成AIに代替され、人間の数が少なくなるからこそ、人間にしか持てないコミュニケーション能力や、人とつながる力、いわゆる「人間力」がこれまで以上に求められるという考え方が示されています。
これは重要な指摘です。
AIは文章を書けます。
情報を整理できます。
アイデアも出せます。
しかし、
「この人と仕事をしたい」
「この人なら相談できる」
「この人に任せたい」
という信頼関係は、単純な生産性だけでは生まれません。
だからこそ、
AIが得意な仕事はAIに任せ、人間は人間にしかできない仕事に時間を使う
という考え方が重要になります。
そして、ここで思い出したいのが、サム・アルトマンの考え方として本書で紹介されている、
「集中し努力すること」
「個人的なつながりを大切にすること」
「自分自身の信念を持ち確信すること」
という3つです。
AIが進化しても、この3つの価値は簡単にはなくなりません。
むしろAIが誰でも使えるようになるほど、
「何をやるのか」
「誰とやるのか」
「なぜやるのか」
を決める人間側の力が重要になります。
50代からAIを学ぶなら「経験に掛け合わせる」
AIの話になると、
「若い人にはかなわない」
「もう今から勉強しても遅い」
と思う人もいるでしょう。
しかし、私はそうは考えていません。
50代以降の会社員には、これまでの仕事で積み上げてきた経験があります。
AIには、その経験がありません。
たとえば、長年人事の仕事をしてきた人なら、人事制度についてAIより詳しい部分があるでしょう。
営業経験が長い人なら、顧客との接し方や商談の勘所を知っています。
製造現場を長く経験した人なら、現場特有の問題を理解しています。
つまり、AIに対抗して自分が何でもできるようになる必要はありません。
自分が持っている経験を、AIによって増幅する。
この発想でいいのです。
私自身も、生成AIを使って記事を書くようになって感じるのは、AIにすべてを任せると自分の記事ではなくなるということです。
AIにテーマを出してもらう。
構成を考えてもらう。
文章を改善してもらう。
しかし、最終的に何を書くのか、どの経験を入れるのか、どの言葉を残すのかは自分で決める。
この役割分担が重要です。
AIに自分を置き換えてもらうのではなく、
AIを使って、自分の経験をより多くの人に届ける。
これなら、年齢を重ねてきたことも立派な武器になります。
それでも「AIを使えば安心」とは言えない
ここまでAIのメリットを書いてきましたが、AIを過信するのも危険です。
生成AIは、もっともらしい誤情報を出すことがあります。
いわゆるハルシネーションです。
そのため、重要な情報は必ず確認する必要があります。
また、会社の機密情報や個人情報を不用意にAIへ入力することも避けなければなりません。勤務先でAIを使う場合は、会社の利用ルールや情報管理の方針を確認する必要があります。
さらに、
AIを使えば副業で簡単に稼げる
という考え方にも注意が必要です。
AIによって作業は効率化できます。
しかし、顧客を見つけること、信頼を得ること、価値のあるサービスをつくることまで自動化されるわけではありません。
だから私は、
「AIを使えるようになれば安心」ではなく、「AIを使いながら、自分の専門性と判断力を更新し続けることが安心につながる」
と考えています。
本書の「AIを使わなければオワコン人材になる」という強いメッセージも、私は「AIを盲目的に使え」という意味ではなく、変化する仕事環境から目をそらさないための警鐘として受け取りました。
10年後に仕事とお金に困らないために、今日から何をするか
では、AI初心者は何から始めればいいのでしょうか。
いきなりAIの専門家を目指す必要はありません。
まず、自分の仕事を一度棚卸ししてみる。
「毎週、何時間くらい同じ作業をしているか」
「自分が苦手なのはどんな作業か」
「文章、情報整理、資料作成、アイデア出しのどこに時間がかかっているか」
を書き出します。
その中から一つだけ選び、AIに相談してみる。
たとえば、こんなプロンプトです。
あなたは私の仕事の業務改善アドバイザーです。私は○○の仕事をしています。日常業務の中で、生成AIに任せられそうな作業を5つ挙げてください。それぞれについて、①AIに任せる部分、②人間が確認する部分、③期待できる効果、④注意点を具体的に説明してください。
これなら、AIの勉強をするための勉強ではなく、
「自分の仕事をAIでどう変えられるか」
を考えることができます。
そして、一つ試す。
うまくいかなければ修正する。
便利なら繰り返す。
次の仕事に応用する。
この小さな実践の積み重ねが、リスキリングになります。
おわりに――10年後を予測するより、今日の仕事を一つ変える
木内翔太著『AIのド素人ですが、10年後も仕事とお金に困らない方法を教えてください!最悪の未来でも自分だけが助かる本』を読んで、私が最も強く感じたのは、
AI時代への備えは、AIの専門家になることではない
ということです。
大切なのは、
専門スキル×生成AI。
そして、
AIスキル×人間力。
この掛け算です。
AIがどこまで進化するのか、10年後の仕事がどうなっているのかを正確に予測することはできません。
だからこそ、未来を当てることより、変化に対応できる自分をつくることが重要です。
情報を集める。
実際に使う。
自分の仕事に応用する。
人とつながる。
専門性を磨く。
そして、小さくても新しい仕事をつくってみる。
「AIのド素人だから、もう遅い」と考える必要はありません。
むしろ、分からないからこそ、今日から一つ試してみればいい。
10年後の自分を救ってくれるのは、10年後に突然身につけたAIスキルではなく、今日から始めた小さな実践の積み重ねです。
AIに仕事を奪われないためだけにAIを学ぶのではない。
AIを使って、自分の経験をもっと価値のあるものに変える。
その視点を持てるかどうか。
それが、これからのキャリアを考えるうえで大きな分かれ道になるのだと思います。