「ジョブ型人事」で50代会社員はどうなる?迷子にならないように!

「これから会社は、ジョブ型人事に変わっていく」

そんな話を耳にする機会が増えました。

しかし、ジョブ型人事と聞いても、

「結局、自分の仕事はどう変わるのだろう?」

「年功序列がなくなるということ?」

「専門性がなければ、50代以降は厳しくなるのではないか?」

「会社から必要とされなくなったら、どうすればいいのか?」

と、不安を感じる人も少なくないでしょう。

特に50代になると、若い頃とは事情が違います。

これから何十年もかけて新しいキャリアをつくるわけではありません。これまで積み上げてきた経験、知識、人脈、実績をどう活かしながら、残りの職業人生を設計していくのか。

その問いが、より現実的なものになってきます。

藤井薫さんが書かれた『ジョブ型人事の道しるべ キャリア迷子にならないために知っておくべきこと』を読んで、私が強く感じたのは、ジョブ型人事について考えることは、単なる「人事制度の勉強」ではないということです。

むしろ、

「会社にキャリアを預け続けるのか。それとも、自分のキャリアを自分で考えるのか」

という問題なのではないでしょうか。

ジョブ型人事の本質を理解すると、これからの働き方が少し違って見えてきます。

ジョブ型人事は「会社員の働き方」を変える

まず考えておきたいのが、企業がなぜジョブ型人事制度を導入しようとしているのかということです。

その主な目的の一つが、

「人件費の合理性」を高めること

だと本書では指摘されています。

会社にとって、人件費は非常に大きなコストです。

「この仕事には、どれくらいの価値があるのか」

「その仕事を担当する人には、どの程度の報酬を支払うべきなのか」

「どんな能力を持った人材を、どのポジションに配置すべきなのか」

こうしたことを、より明確にしようとするのがジョブ型人事の一つの側面です。

従来の日本企業では、

「入社してから経験を積ませる」

「異動を繰り返しながら会社全体を理解する」

「長く働けば、それに応じて処遇も上がる」

というメンバーシップ型の考え方が強くありました。

ところがジョブ型では、

「その人が何年会社にいるのか」よりも、「どのような仕事を担い、どんな価値を生み出しているのか」

が、より重要になります。

これは会社員にとって、かなり大きな変化です。

ジョブ型人事は「リストラの制度」なのか

ジョブ型人事という言葉を聞くと、

「人件費削減のための制度なのでは?」

と考えてしまうかもしれません。

確かに企業にとって人件費の合理性は重要です。

しかし、本書を読んで印象に残ったのは、それだけではないという点でした。

企業が重視しているのは、

適所適材の採用・配置や、リテンション、つまり退職防止などのタレントマネジメント上のニーズ

でもあるのです。

これは非常に重要な視点です。

人材不足の時代に、企業が優秀な人材を確保し、適切な場所で活躍してもらうことは、会社の経営そのものに関わります。

「人を安く使う」

だけでは、企業は長期的に成長できません。

むしろ、

「この人は何が得意なのか」

「どんな仕事なら能力を発揮できるのか」

「どのようなキャリアを望んでいるのか」

を把握して、適切な仕事を任せる。

その結果として、社員が会社に残り、成果を出してくれる。

ジョブ型人事は、そんなタレントマネジメントの一環として考える必要があります。

つまり、

ジョブ型人事は「人を切る仕組み」とだけ捉えると、本質を見誤る

のです。

人事部が抱えている「三つの課題」

本書を読んで、企業の人事部が何を考えているのかを少し違う角度から見ることができました。

人事部には、大きくいえば三つの課題があります。

一つ目は、

人件費をコントロールしなければならない。

二つ目は、

必要な人材を確保しなければならない。

そして三つ目が、

長期化する雇用責任を果たさなければならない。

この三つは、どれも簡単ではありません。

人件費を下げたい。

しかし、人材は確保したい。

さらに、社員の雇用にも責任を持たなければならない。

この矛盾するような課題を同時に解決する方法として、

ジョブ型、職務給、そしてキャリア自立

が注目されている。

ここが、本書から学んだ大きなポイントでした。

会社が一方的に社員のキャリアを決めるのではなく、

社員自身も自分のキャリアについて考える。

会社と社員の双方が、それぞれの役割を果たしていく。

そう考えると、ジョブ型人事は「会社から与えられる制度」ではなく、「働く人自身がキャリアを考えるきっかけ」でもあるのです。

「キャリア自立」は、会社を辞めることではない

ここで誤解してはいけないのが、

キャリア自立=会社を辞めて独立すること

ではないということです。

会社に勤め続けながらでも、キャリア自立はできます。

むしろ重要なのは、

「自分は何ができるのか」

「どんな仕事で価値を提供できるのか」

「これから何を伸ばしたいのか」

「会社の中で、どんな役割を担いたいのか」

を自分で考えられることです。

これまでの会社員人生を振り返ってみると、会社から仕事を与えられることが当たり前だった人も多いでしょう。

辞令が出れば異動する。

上司から指示された仕事をする。

評価されれば昇進する。

給与が上がれば生活も安定する。

こうした仕組みは、ある意味で非常にありがたいものです。

しかし、その一方で、

「自分は何者なのか」

を考える機会を奪ってしまうこともあります。

会社の肩書きを外した瞬間、

「自分には何ができるのだろう?」

と分からなくなってしまう。

これが、いわゆる「キャリア迷子」の状態なのではないでしょうか。

50代から怖いのは「専門性がないこと」ではない

50代になると、

「今さら専門性を身につけるなんて無理だ」

と考えてしまう人もいます。

しかし、本書を読んで私が注目したのは、

専門能力を高めるカギは、経験年数の長さではなく、成長につながる仕事の「場数」である

という考え方です。

これは非常に勇気を与えてくれる考え方です。

例えば、20年間同じ仕事をしてきた人がいたとします。

20年という数字だけを見れば、大ベテランです。

ところが、その20年間が、

「同じことを繰り返してきただけ」

だったとしたら、専門能力が20年分積み上がっているとは限りません。

一方で、さまざまな難しい案件に挑戦し、失敗し、改善し、異なる相手と仕事をし、未知の問題を解決してきた人なら、経験年数以上の専門性を持っている可能性があります。

つまり、

年数ではなく、場数。

これが大切なのです。

「経験」を「専門性」に変える方法

ここからが、50代にとって重要なポイントです。

私たちは、これまでの経験を「経験した」というだけで終わらせてはいけません。

経験を、

再現可能な能力

に変えていく必要があります。

例えば、

「人事の仕事を30年やりました」

だけでは弱い。

それより、

「評価制度の運用で、現場と人事の意見が対立した際に、双方の論点を整理して合意形成を進めてきました」

というほうが、専門性が伝わります。

さらに、

「その方法なら、別の会社でも活用できます」

となれば、経験が市場価値に変わります。

つまり、

経験 → 言語化 → 能力化 → 再現性 → 市場価値

という流れをつくるのです。

50代から新しい資格を一つ取ることだけがキャリア形成ではありません。

むしろ、これまで何十年もやってきた仕事の中から、

「自分は何を解決してきたのか」

を掘り起こすほうが、はるかに現実的な場合があります。

人事評価は「給料を決めるだけ」ではない

もう一つ、本書を読んで考えさせられたのが「人事評価」です。

人事評価というと、

「ボーナスを決めるもの」

「昇進を決めるもの」

というイメージがあります。

しかし、人事評価には、

・組織目標との整合
・職務遂行状況の把握
・人材情報の把握
・給与・賞与の査定

という複数の機能があります。

つまり、人事評価は単なる「点数付け」ではありません。

会社から見れば、

「誰が、どんな仕事をしていて、どんな能力を持っているのか」

を把握する重要な仕組みなのです。

ここで、働く側にも重要な視点があります。

自分がどんな仕事をしているのか。

どんな成果を出しているのか。

どんな能力を発揮しているのか。

それを自分自身でも把握しておくことです。

「評価される人」から「価値を説明できる人」へ

50代からのキャリアで重要になるのは、

「評価されるのを待つ」ことから卒業する

ことではないでしょうか。

会社の評価制度だけに、自分の価値を委ねない。

自分自身で、

「私はこういう仕事ができます」

「こういう問題を解決してきました」

「こういう場面では価値を発揮できます」

と説明できるようにする。

これは転職をする人だけに必要なことではありません。

社内異動でも、役職定年後でも、副業でも、定年後の仕事でも必要になります。

会社の肩書きが変わったとしても、

「自分が提供できる価値」

が説明できれば、次の仕事につながるからです。

50代から始める「キャリアの棚卸し」

では、具体的に何をすればいいのでしょうか。

私は、50代になったら一度、

「自分の仕事の棚卸し」

をすることをおすすめします。

まず、これまで担当した仕事を書き出します。

そして、それぞれについて、

「何をしたか」

だけではなく、

「何が問題だったか」

「自分は何を考えたか」

「どんな工夫をしたか」

「誰と協力したか」

「結果として何が変わったか」

を書いていきます。

例えば、

「新人教育を担当した」

だけではありません。

「新人が職場になじめず、早期離職が続いていた。そこで、入社後3カ月間の面談を増やし、直属の上司だけでなく先輩社員もフォローする仕組みをつくった。その結果、相談件数が増え、早期離職者が減った」

というところまで掘り下げる。

すると、単なる「新人教育経験」が、

「人材定着の仕組みをつくる能力」

へと変わります。

これこそが、経験の価値を高めるということではないでしょうか。

「場数」を増やすなら、今の会社でもできる

「もう50代だから、今さら新しいことはできない」

という必要はありません。

むしろ、今の会社にいるからこそできる「場数」があります。

例えば、

・今まで担当したことのない仕事に手を挙げる
・他部署のプロジェクトに参加する
・若手社員と一緒に仕事をする
・顧客との直接対話を増やす
・社内研修の講師を担当する
・業務改善の提案をする
・自分の仕事をマニュアル化する
・後輩を育成する
・異なる部署の人と問題解決をする

こうした経験も、すべて「場数」です。

大切なのは、

「新しい会社に行かなければ成長できない」

と決めつけないことです。

今いる場所でも、仕事の取り組み方を変えれば、新しい経験を積むことはできます。

ジョブ型時代は「指示待ち社員」には厳しくなる

ジョブ型人事が広がっていくと、

「言われたことをきちんとやる」

だけでは、以前ほど評価されなくなる可能性があります。

もちろん、与えられた仕事を確実に遂行することは重要です。

しかし、それだけではなく、

「この仕事の目的は何なのか」

「もっと良い方法はないか」

「自分はどんな価値を提供できるか」

を考えることが必要になります。

なぜなら、ジョブ型では「仕事」が明確になるからです。

仕事が明確になれば、

「その仕事をどのように遂行できるか」

も比較しやすくなります。

そこで問われるのが、専門性です。

さらに言えば、

専門性を使って問題を解決する力

です。

50代に必要なのは「若者になること」ではない

ここは強調しておきたいところです。

50代になってから、

「20代の若者と同じように新しいスキルを身につけなければならない」

と考える必要はありません。

もちろん学び直しは重要です。

しかし、50代には50代にしかない武器があります。

それが、

経験の蓄積

です。

これまでの仕事で、

「うまくいかなかったこと」

「失敗したこと」

「人間関係で苦労したこと」

「難しい顧客に対応したこと」

「上司と意見がぶつかったこと」

「制度を導入したこと」

「後輩を育てたこと」

こうした経験は、若い人にはまだありません。

問題は、それを自分の中だけに眠らせていることです。

経験を言葉にする。

整理する。

人に説明する。

別の仕事でも使える形にする。

そうすることで、過去の経験が未来のキャリア資産になります。

ジョブ型人事の時代に「会社を利用する」という発想

ジョブ型人事について考えていると、

「会社から評価されなければならない」

という発想になりがちです。

しかし、もう一つの考え方があります。

それは、

「会社という環境を、自分の成長のためにも活用する」

という発想です。

会社には、仕事があります。

顧客がいます。

上司がいます。

同僚がいます。

研修があります。

プロジェクトがあります。

そして、失敗しても給与をもらいながら経験できる環境があります。

これほど恵まれた「学習の場」は、なかなかありません。

だからこそ、

「会社にいる時間=ただ給料をもらう時間」

と考えるのではなく、

「会社で仕事をしながら、自分の専門性を高める」

という視点を持ちたいものです。

これからの会社員に必要なのは「キャリアの二重化」

これからの時代は、

「会社員としてのキャリア」

と

「個人としてのキャリア」

を分けて考えることも大切になるでしょう。

会社員としては、

「今の会社で成果を出す」

ことが必要です。

一方で個人としては、

「会社の外でも通用する能力を育てる」

ことが重要です。

この二つは対立しません。

むしろ、会社で良い仕事をすることが、個人のキャリア資産にもなる状態をつくればいい。

例えば、

会社で人材育成を担当する。

↓

育成ノウハウが蓄積する。

↓

研修資料をつくれるようになる。

↓

人材育成について説明できるようになる。

↓

社内外で専門性を発揮できる。

という具合です。

今の仕事を、

「会社のためだけの仕事」にしない。

そこに自分自身のキャリア資産を重ねていく。

これが、ジョブ型時代の一つの生き方ではないでしょうか。

「キャリア迷子」にならないために

本書のタイトルには、

「キャリア迷子にならないために知っておくべきこと」

という言葉があります。

私は、この「キャリア迷子」という言葉がとても重要だと思います。

会社にいる間は、

「部長」

「課長」

「人事担当」

「営業担当」

など、会社が肩書きを与えてくれます。

しかし、定年や役職定年、転職などによって、その肩書きがなくなることがあります。

そのとき、

「私は何者なのか?」

が問われます。

だからこそ、今から考えておく。

「会社の肩書きがなくなっても、自分には何が残るのか?」

この問いに答えられるようにしておきたいのです。

残るのは、資格だけではありません。

経験。

知識。

問題解決能力。

人との関係。

仕事の進め方。

専門性。

そして、

「この人に頼めば何とかしてくれる」

という信頼。

それらすべてがキャリア資産になります。

定年までの時間を「準備期間」に変える

定年が近づくと、

「あと何年働けばいいのだろう」

と考えてしまいます。

しかし、同じ時間を別の見方で捉えることもできます。

「あと何年も準備できる」

と考えるのです。

今日から、

「自分は何ができるのか」

を考える。

仕事の棚卸しをする。

これまでの経験を言語化する。

新しい場数を増やす。

人とのつながりを広げる。

自分の専門性を磨く。

こうしたことを積み重ねていけば、定年を迎える頃には、

「会社を辞めたら何もない」

という状態から、

「会社を離れても、これならできる」

という状態に変わっているかもしれません。

ジョブ型人事は「脅威」ではなく「自分を知る機会」

ジョブ型人事には、もちろん不安があります。

従来の働き方が変わる。

評価のされ方が変わる。

職務や役割が明確になる。

専門性を求められる。

こうした変化に戸惑うのは当然です。

しかし、変化をただ恐れるだけではなく、

「自分の価値を見直す機会」

として捉えてみたい。

「自分は何ができるのか?」

「何を任されてきたのか?」

「どんな問題を解決してきたのか?」

「どんな仕事なら、もっと価値を提供できるのか?」

この問いを持つだけでも、キャリアに対する見方は変わります。

「会社に必要とされる人」から「価値を提供できる人」へ

これからの時代に目指したいのは、

「会社に必要とされる人」

だけではないと思います。

より大切なのは、

「どこにいても価値を提供できる人」

になることです。

会社から必要とされれば、それは素晴らしいことです。

しかし、会社の状況は変わります。

組織も変わります。

上司も変わります。

制度も変わります。

市場も変わります。

だからこそ、

「会社が自分をどう評価するか」

だけに自分の人生を預けない。

自分自身で、

「私はこういう価値を提供できます」

と言える状態をつくる。

それがキャリア自立なのではないでしょうか。

おわりに―「あと何年」ではなく「あと何回、場数を踏めるか」

藤井薫著『ジョブ型人事の道しるべ』を読んで、ジョブ型人事について考えることは、そのまま自分のキャリアを考えることなのだと感じました。

企業には企業の事情があります。

人件費を合理化しなければならない。

必要な人材を確保しなければならない。

長期化する雇用責任にも対応しなければならない。

その中で、ジョブ型や職務給、キャリア自立が注目されています。

一方、働く側にも考えるべきことがあります。

それは、

「自分は何者なのか」

ということです。

何年会社にいたかではありません。

どれだけ難しい仕事に向き合ったか。

どれだけ問題を解決したか。

どれだけ場数を踏んだか。

その経験から、どんな専門性を身につけたか。

そして、その専門性を誰かの役に立つ形で提供できるか。

ここまで考えてみると、50代という年代も、決して遅くありません。

むしろ、これまで積み上げてきた経験を「キャリア資産」に変えるには、絶好のタイミングなのかもしれません。

定年まで「あと何年」と数えるのではなく、

「定年までに、あと何回の場数を踏めるだろう」

と考えてみる。

今日の仕事を一つの「場数」にする。

新しい仕事を一つ経験する。

誰かの相談に乗る。

難しい問題を一つ解決する。

その経験を言葉にする。

そして、自分の専門性として積み上げる。

そうやって考えると、会社員人生の残り時間は、単なる「消化試合」ではなくなります。

ジョブ型人事の時代に必要なのは、会社の制度に怯えることではありません。

自分の経験を、自分の未来のために使い切ること。

それこそが、キャリア迷子にならず、人生後半を自分らしく働くための「道しるべ」なのではないでしょうか。

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