先延ばしは意志の弱さではない!脳のクセを味方につける4つの方法

「やらなければいけないのに、なかなか始められない」

「今日こそ勉強しようと思ったのに、気づけばスマートフォンを見ている」

「何度も決意したのに、三日坊主で終わってしまう」

こんな経験はないでしょうか。

私たちは、行動できない理由を「意志が弱いから」「自分に甘いから」と考えがちです。しかし、気合や根性だけで行動を変えようとしても、なかなか長続きしません。

竹林正樹さんが書かれた『科学的に自分を動かす62のコツ すぐやる人の脳のクセ!』を読んで、印象に残ったのは、人を動かすには、意志の力に頼るよりも、脳のクセを理解して仕組みを変えることが有効だという考え方です。

本書から学べるのは、次の3つです。

  • なぜ人は、やるべきことを先延ばしにしてしまうのか
  • 情報・ナッジ・インセンティブ・強制を使って行動を変える方法
  • 自分や周囲の人が自然に動ける環境をつくるコツ

今回は、特に印象に残った内容を整理しながら、仕事や日常生活に応用できる行動術を考えてみます。

1.人は「考えて行動する」より「なんとなく動いている」

私たちは、自分の意思で物事を判断し、行動していると思っています。

しかし、実際の日常を振り返ると、すべての行動をじっくり考えて決めているわけではありません。

朝起きてからの行動、通勤途中に立ち寄る店、昼食のメニュー、仕事の進め方。多くは「いつもの習慣だから」「なんとなく」「つい」といった感覚で選んでいます。

本書では、人の行動の9割は「なんとなく」「つい」「気づいたら」といった直感に支配されていると説明されています。

このような無意識の判断に関係するのが「認知バイアス」です。

認知バイアスとは、情報を受け取ったり判断したりするときに生じる、思考の偏りや脳のクセを指します。

たとえば、目の前にあるものを選びやすい、過去にうまくいった方法を繰り返す、周囲の人と同じ行動を取ろうとする。こうした傾向も、日常の判断に影響しています。

認知バイアスという言葉からは、合理的な判断を妨げる欠点という印象を受けるかもしれません。

ところが、本書が興味深いのは、認知バイアスを単なる欠点として扱っていないことです。

それは、人類が長い歴史の中で生き延びるために身につけてきた「生きる知恵」でもあります。

危険が迫っているとき、すべての情報を集めて慎重に判断していては間に合いません。過去の経験をもとに素早く判断する能力は、生き延びるために役立ってきました。

つまり、脳はいつも合理的な判断を最優先しているわけではないのです。

この性質を理解すると、行動できない自分への見方も変わります。

「自分は意志が弱い」と責める前に、「なぜ、この場面では行動できないのか」「どんな環境が自分の行動を妨げているのか」と考えてみる。

自分を変える第一歩は、自分を責めることではなく、自分の脳のクセを知ることです。

2.正論だけでは人は動かない――行動を変える4つの方法

本書を通じて、私が特に重要だと感じたのは、正論を伝えるだけでは人は動かないということです。

「早く始めたほうがいい」
「毎日続けるべきだ」
「スマートフォンばかり見ていてはいけない」

どれも正しい意見でしょう。しかし、正しいことを理解していても、行動に移せるとは限りません。

自分自身に対しても同じです。「明日から頑張ろう」と決意しても、翌日にはいつもの習慣に戻ってしまうことがあります。

では、どうすれば行動を変えられるのでしょうか。

本書では、行動を変える方法として、次の4つが紹介されています。

① 情報――気づきと納得を行動につなげる

一つ目は、情報を得ることです。

人は、知らなかったことを知り、その必要性を理解すると、行動を変えるきっかけを得られます。

たとえば、健康診断で生活習慣の改善を勧められたとします。食生活や運動不足が将来の健康に影響することを知り、納得すれば、食事や運動を見直そうと思うでしょう。

仕事でも同じです。

新しい業務の目的や背景を理解できれば、単に指示された作業として取り組むのではなく、自分から工夫する余地が生まれます。

ただし、情報を与えるだけでは十分ではありません。知識が増えても、実際の行動につながらないことはよくあります。

情報は行動を変える出発点です。次に紹介する仕組みづくりと組み合わせることで、効果を発揮します。

② ナッジ――行動しやすい環境をつくる

二つ目は「ナッジ」です。

ナッジとは、人の認知バイアスや行動の傾向を理解し、選択の自由を残しながら、望ましい行動を取りやすくする仕組みを設計することです。

たとえば、次のような工夫があります。

  • 勉強を習慣にしたいなら、机の上に教材を開いておく
  • 野菜を食べる習慣をつけたいなら、冷蔵庫の目につく場所に置く
  • 運動を始めたいなら、前日の夜に運動着を準備しておく
  • スマートフォンを見る時間を減らしたいなら、勉強中は別の部屋に置く

いずれも、特別な努力を必要としません。

行動を始めるまでの手間を減らし、望ましい行動が自然に選ばれやすい環境をつくっています。

ナッジの一つに「規範ナッジ」があります。

これは、望ましい状態や行動の基準を示すことで、人の行動を促す設計です。

たとえば、職場で「会議の資料は前日までに共有しましょう」と伝えるだけでなく、「会議の前に全員が資料を確認できている状態を標準にしましょう」と目指す姿を具体的に示します。

個人の生活なら、「もっと本を読もう」ではなく、「寝る前に10分間読書する生活を標準にする」と決める方法です。

人は、目指す状態が明確になると、自分が何をすればよいか判断しやすくなります。

ただし、規範の示し方には注意が必要です。

たとえば、「多くの人がルールを守っていません」と伝えると、受け手に「守らない人が多いのなら、自分も守らなくてよい」という印象を与える可能性があります。

望ましくない行動を強調するのではなく、「多くの人が実践している望ましい行動」や「これから目指す状態」を示す。これが規範ナッジを活用するポイントです。

③ インセンティブ――ご褒美や罰で行動を促す

三つ目は、インセンティブです。

行動したことに対してご褒美や報酬を与えたり、望ましくない行動に不利益を設けたりすることで、行動を促します。

たとえば、資格試験の勉強を1週間続けたら好きなものを食べる。運動を継続できたら欲しかったものを購入する。

こうした小さなご褒美を設定すれば、目標に向かう楽しみが生まれます。

一方、目標を達成できなかった場合のペナルティを決める方法もあります。

ただし、報酬や罰に頼りすぎると、それがなくなった途端に行動が止まる可能性があります。

あくまで、行動を始めたり継続したりするための補助として活用するのがよいでしょう。

④ 強制――やらざるを得ない状況をつくる

四つ目は、強制です。

自分の意思だけではどうしても行動できない場合、行動せざるを得ない状況をつくります。

たとえば、資格試験の受験日を先に申し込む。友人と一緒に勉強する約束をする。定期的に進捗を報告する相手をつくる。

こうすれば、「いつかやろう」と先延ばしにすることが難しくなります。

もちろん、無理な目標や過度な強制はストレスや反発につながります。自分に合った適度な制約を設けることがポイントです。

4つの方法を整理すると、次のようになります。

方法 行動を変える仕組み 具体例
情報 知って納得する 健康リスクや業務の目的を理解する
ナッジ 行動しやすくする 教材を机に置いておく
インセンティブ 報酬や罰を設ける 1週間続けたらご褒美
強制 やらざるを得なくする 受験日や報告日を先に決める

意志の強さだけに頼らず、自分の状況に合った方法を選ぶ。それが行動を変える出発点になります。

3.なぜ行動できないのか?立ちはだかる4つの落とし穴

行動を変えようとしても、思うように進まないことがあります。

本書で紹介されている問題を整理すると、次の4つです。

① 目標や理由が曖昧で、迷走する

「もっと勉強する」「健康に気をつける」「仕事を頑張る」。

どれも間違ってはいませんが、具体的に何をすればよいのかが分かりません。

「資格の勉強をする」ではなく、「毎朝7時から15分間、テキストを3ページ読む」と決める。

「運動不足を解消する」ではなく、「夕食後に10分間歩く」と決める。

目標を具体的な行動に置き換えれば、迷う時間を減らせます。

② 最初と最後の印象に左右される

人は、経験したことをすべて均等に評価するわけではありません。

心理学で知られる「ピーク・エンドの法則」は、経験の評価が、その出来事の最も印象的な場面と最後の場面に強く影響されるという考え方です。

たとえば、会議の冒頭で厳しい指摘を受け、最後も否定的な言葉で終われば、途中に有益な議論があっても、会議全体が嫌なものとして記憶されることがあります。

自分の習慣づくりにも応用できます。

勉強を始めるときは、難しい課題から取り組むのではなく、簡単な問題を解いて勢いをつける。終わるときには、できたことを確認して次回の予定を決める。

始め方と終わり方を工夫することで、次の行動につなげやすくなります。

③ 目の前の誘惑を優先してしまう

将来のために資格の勉強をするより、今すぐ楽しめる動画を見る。健康のために運動するより、ソファでくつろぐ。

私たちは、遠い将来の大きな利益よりも、目の前の小さな快楽を優先してしまうことがあります。

これは、行動経済学で「現在バイアス」と呼ばれる考え方にも関係します。

誘惑に勝とうとするだけでは、何度も同じことを繰り返します。

スマートフォンを別の部屋に置く。動画アプリの通知を切る。勉強中は机の上に必要なものだけを置く。

誘惑に接する機会を減らすことで、行動を変えやすくなります。

④ 成功体験やエピソードに頼りすぎる

「あの人は、この方法で成功した」
「以前は、このやり方でうまくいった」

こうした経験は参考になります。しかし、他人の成功事例が自分にも当てはまるとは限りません。

環境も、能力も、置かれている状況も違うからです。

自分の過去の成功体験にこだわりすぎると、状況が変わっているのに同じ方法を続けてしまうこともあります。

成功体験をそのまま真似するのではなく、なぜうまくいったのかを考え、自分の状況に合う形に調整する。

エピソードの印象だけで判断せず、具体的な条件や仕組みに目を向けることが解決への近道です。

4.4つの落とし穴を避けるために、明日からできる3つの工夫

ここまで紹介した4つの落とし穴は、具体的な工夫によって対処できます。

私なら、次の3つから始めます。

工夫① 行動を小さく、具体的にする

目標や理由が曖昧なときは、最初の一歩を具体化します。

ブログを書くなら、最初から完成を目指さず、タイトルを一つ考える。資格の勉強なら、テキストを1ページ読む。運動なら、玄関を出て5分歩く。

「何をするか」だけでなく、「いつ、どこで、どれくらいするか」まで決めます。

これによって、迷う時間を減らせます。

工夫② 始め方と終わり方を整える

最初と最後の印象に左右されるなら、行動の始め方と終わり方を工夫します。

勉強を始める前に、簡単な問題を一つ解く。終わるときには、今日できたことを一つ記録する。

できなかったことばかりを振り返るのではなく、できたことを確認して次につなげます。

工夫③ 誘惑を遠ざけ、成功事例を自分用に調整する

スマートフォンが気になるなら、手の届かない場所に置く。動画を見続けてしまうなら、通知を切る。

そして、他人の成功事例を参考にするときは、自分の生活にそのまま当てはめないことです。

「この方法のどこが自分に使えるのか」「自分の環境に合わせるなら、どう変えればよいか」と考えます。

4つの落とし穴と対策を整理すると、次のようになります。

行動を妨げる落とし穴 対応する工夫
① 目標や理由が曖昧 行動を小さく、具体的にする
② 最初と最後の印象が悪い 始め方と終わり方を整える
③ 目の前の誘惑を優先する 誘惑を遠ざける環境をつくる
④ 成功体験に頼りすぎる 自分の状況に合わせて調整する

4つの問題を一度に解決する必要はありません。自分がつまずきやすいものを一つ選び、対策を試してみる。それだけでも行動を変えるきっかけになります。

5.自分だけでなく、職場の人を動かすときにも使える

ここまでの考え方は、自分自身の行動を変えるだけでなく、職場のマネジメントにも応用できます。

たとえば、部下が報告を後回しにしているとします。

「なぜ早く報告しないのか」と叱るのは簡単です。しかし、叱るだけでは行動は変わりません。

報告の基準が曖昧なのか。報告するタイミングが分からないのか。失敗を指摘されることを恐れているのか。

行動の背景を観察すれば、対応策も変わります。

報告の基準を明確にする。短い報告の機会を設ける。途中段階でも相談できる雰囲気をつくる。

これは、ナッジや規範ナッジの考え方にも通じます。

また、会議で意見が出ない場合も同じです。

「積極的に発言してください」と呼びかけるだけでなく、最初に発言する人を決めておく。少人数で話し合ってから全体で共有する。意見を出すための質問を具体的にする。

人に行動を求める前に、行動しやすい環境を整えるのです。

正論を繰り返すより、行動の障害を取り除く。怒る前に、相手の脳のクセや置かれている状況を観察する。

この視点は、上司と部下の関係だけでなく、家族とのコミュニケーションにも活用できます。

おわりに――大きな決意より、小さな仕組み

竹林正樹著『科学的に自分を動かす62のコツ すぐやる人の脳のクセ!』を読んで学んだのは、行動を変えるために、意志の強さだけに頼る必要はないということです。

人の行動には、無意識の判断や認知バイアスが影響しています。だからこそ、自分の脳のクセを理解し、行動しやすい環境を整えることが有効なのです。

今回の学びを振り返ります。

  • 人の行動の多くは、直感や無意識の判断に影響されている
  • 認知バイアスは、単なる欠点ではなく、生き延びるために身につけた脳のクセでもある
  • 行動を変える方法には、情報・ナッジ・インセンティブ・強制がある
  • 目標を具体化し、誘惑を遠ざけ、始め方と終わり方を工夫する
  • 人を動かすときは、正論や叱責よりも、行動しやすい仕組みを考える

私たちは、何かを始めようとするとき、「今度こそ頑張ろう」と決意します。

しかし、決意だけでは日常の習慣に押し戻されてしまいます。

それなら、頑張らなくても自然に行動できる環境を先につくればよいのです。

たとえば、明日から読書を始めたいなら、今夜のうちに本を机の上に置いておく。資格の勉強をしたいなら、朝起きてすぐ開けるようにテキストを準備する。運動を始めたいなら、玄関に靴を出しておく。

小さな準備が、明日の行動を変えます。

大きな決意より、小さな仕組み。根性より、脳のクセを味方につける。

「明日から頑張る」と決意する前に、一度立ち止まって考えてみてください。

明日、自然と行動できるようにするために、今日できる準備は何だろうか。

まずは一つ、身の回りの環境を変えてみる。そこから行動を変えていきたいものです。

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