ジョブ型は「正解」なのか?メンバーシップ型とは何が違うのか?

「これからはジョブ型雇用の時代だ」

そんな言葉を聞く機会が増えました。

では、ジョブ型とは、いったい何なのでしょうか。

「成果を出した人が評価される仕組み」
「専門性の高い人材を活用する仕組み」

と説明されることもあります。

しかし、濱口桂一郎氏の『ジョブ型雇用社会とは何か―正社員制度の矛盾と転機』を読むと、もっと根本的な違いが見えてきます。

それは、

「職務が雇用契約によって限定されているかどうか」

です。

この一点から、採用、評価、賃金、異動、教育、さらには雇用保障まで、多くの違いが連鎖して生まれます。

人事の視点からこの本を読むと、「ジョブ型にすれば人事制度が良くなる」という単純な話ではないことが分かります。

今回は、ジョブ型とメンバーシップ型の違いを、分かりやすい具体例を交えながら整理します。

 

すべての違いは「職務を限定するか」から始まる

まず、ここを押さえることが重要です。

ジョブ型は「職務に人を付ける」。

メンバーシップ型は「会社のメンバーに仕事を付ける」。

ジョブ型では、最初に「この仕事がある」というところから始まります。

例えば、

「人事制度の企画・運用を担当する人が1人必要だ」

とします。

そこで、その仕事に必要な経験やスキルを持った人を採用する。

 

一方、メンバーシップ型では、

「この人を社員として採用しよう」

が先にあります。

入社後に営業を担当することもあれば、

数年後には総務、人事、企画へ異動することもある。

日本の会社員にとっては、後者がむしろ普通でしょう。

しかし、ジョブ型の考え方からすると、これはかなり特殊です。

なぜなら、雇用契約上の職務が特定されていないため、

会社が人をさまざまな仕事へ動かせるからです。

ここが出発点です。

 

採用――「できる人を採る」か「入社後に育てる」か

職務が限定されれば、採用方法も変わります。

ジョブ型では、採用する段階で、

「この仕事を任せられるか?」

を判断します。

そのため、経験、資格、専門教育、具体的なスキルなどが重要になります。

 

一方、メンバーシップ型では、

入社時点で仕事の専門家である必要はありません。

新卒社員をイメージすると分かりやすいでしょう。

大学を卒業して入社した社員が、営業部に配属される。

営業経験はありません。

しかし、先輩に同行し、顧客への接し方を学び、

見積書の作り方を覚え、徐々に一人前になる。

これが日本企業で長く行われてきた育成の姿です。

 

つまり、

ジョブ型=「仕事ができる人を採る」

メンバーシップ型=「採った人を仕事ができるように育てる」

という違いがあります。

ここから、日本企業でOJTが重視されてきた理由も見えてきます。

 

人事評価――「仕事を遂行できるか」か「人の能力・意欲を見るか」

両者の違いが最も分かりやすく表れるのが、人事評価です。

ジョブ型では、採用段階で「この人はこのジョブを遂行できる」と判断します。

そのため、一般労働者については、

入社後に毎年細かな人事査定を繰り返す必要性が相対的に小さくなります。

 

一方、日本のメンバーシップ型では、ヒラ社員まで細かく評価します。

そこで重要になるのが「能力」と「情意」です。

ここで注意したいのが、日本の人事制度で使われる「能力」という言葉です。

これは、必ずしも「営業スキル」「プログラミング能力」のような具体的な職務スキルではありません。

「あの人は仕事ができる」

というときの「できる」に近い。

潜在能力、人間力、対応力など、測定しにくいものまで含まれます。

「情意評価」も同様です。

仕事への意欲ややる気を評価するため、場合によっては

「遅くまで残って頑張っている」

といった姿が評価につながることもあります。

 

ここに、ジョブ型と日本型評価の大きな違いがあります。

ジョブ型では「職務を遂行できるか」。

メンバーシップ型では「その人はどんな能力を持ち、どれだけ意欲的か」。

この「能力」という言葉の違いを理解しないと、両者を正しく比較できません。

 

賃金――「職務に値札」か「人に値札」か

賃金にも、その違いが表れます。

ジョブ型では、職務そのものに価格が設定されます。

「この仕事には、この程度の専門性が必要だから、この賃金」

という考え方です。

 

一方、メンバーシップ型では、

職務だけでなく、勤続年数、能力、役割などが賃金に影響します。

だから、日本企業では「同じ仕事をしているから同じ賃金」と単純にはなりません。

そして、ここで興味深いのが日本型成果主義です。

職務が明確でないまま、

「今年の目標を設定してください」

「その目標をどれだけ達成したかで評価します」

という仕組みを導入しても、成果を測る物差しそのものが曖昧です。

 

濱口氏は、日本版成果主義について、

職務を明確にした本来のジョブ型ではなく、

賃金抑制のために成果という物差しを持ち込んだ側面を指摘しています。

職務が曖昧なのに、成果だけを厳密に測ろうとする。

ここに、日本企業の成果主義が抱えた矛盾がありました。

 

異動と雇用保障――「仕事がなくなったらどうするか」

ジョブ型とメンバーシップ型の違いは、雇用保障にもつながります。

例えば、営業部門の仕事が減ったとします。

メンバーシップ型なら、

「営業の仕事が減ったから、総務へ異動してもらおう」

という選択肢があります。

職務を限定していないからです。

 

ところが、ジョブ型では、契約上の職務が明確に限定されています。

そのため、会社が一方的に別の職務へ配置転換して解決する、

という手段を取りにくくなります。

もちろん、ジョブ型社会でも解雇には法律上の規制があります。

ただ、重要なのは、「別の仕事へ異動させて雇用を維持する」という日本型の調整方法が使いにくいということです。

だからこそ、メンバーシップ型では、配置転換の柔軟性と長期雇用が結びつきやすい。

「仕事がなくなっても、別の仕事に移して雇用を維持する」。

これが日本型雇用の大きな特徴なのです。

 

教育――「会社の外で身につける」か「会社で身につける」か

採用と表裏一体なのが教育です。

ジョブ型では、応募する段階で「私はこの仕事に必要なスキルを持っています」と示す必要があります。

そのため、学校教育や職業訓練、資格取得など、企業の外で専門性を身につけることが重要になります。

 

一方、メンバーシップ型では、会社に入ってから育てることが前提です。

だからこそOJTが重要になります。

ただし、ここには課題もあります。

未経験者を現場で鍛える仕組みは、教育する側の負担が大きい。

さらに、「厳しく指導すること」と

「パワーハラスメント」の境界が問題になることもあります。

メンバーシップ型は「人を育てる仕組み」である一方、

育成の責任を現場に大きく負わせる仕組みでもあるのです。

 

「ジョブ型=正解」と考えると見失うもの

ここまで見ると、ジョブ型のほうが合理的に見えるかもしれません。

職務が明確。

必要なスキルも明確。

評価基準も明確。

しかし、ここで注意したいことがあります。

ジョブ型とメンバーシップ型は、本来、優劣を決めるための言葉ではありません。

濱口氏も、両者を雇用システムを分類するための学術的概念として捉えています。

現実の企業も、完全にどちらか一方というわけではありません。

職務を明確にしながら社内異動を行う企業もあれば、

メンバーシップ型を基礎にしながら専門職には職務・役割を明確にする企業もあります。

つまり、現実にはハイブリッド型も多い。

だから、「ジョブ型にすればすべて解決する」という考え方には注意が必要です。

 

「ジョブ型」という言葉だけでは、人事制度は変わらない

長年、人事の仕事をしてきた私は、ここが最も重要なポイントだと感じます。

本当にジョブ型へ移行するのであれば、

「どんな仕事なのか」

「その仕事には何のスキルが必要なのか」

「誰を採用するのか」

「何を基準に評価するのか」

「その仕事にいくら払うのか」

「仕事がなくなったとき、雇用をどうするのか」

まで、一貫して考えなければなりません。

「評価制度だけジョブ型」

「成果主義だけ導入」

「ジョブディスクリプションだけ作成」

では、本来の意味でのジョブ型とは言えません。

職務を起点に、人事の仕組み全体をつなげる。

これが重要なのです。

 

大切なのは、自分の会社が、

何を基準に採用しているのか。

何を基準に評価しているのか。

何に対して賃金を払っているのか。

なぜ異動が行われるのか。

を考えてみることです。

 

例えば、

営業として入社した社員が3年後に人事へ異動したとき、

「なぜ自分が人事なのか」を会社が説明できるでしょうか。

 

逆に、

職務を明確にして採用する会社なら、

「あなたには、この仕事に必要なこのスキルがあるから採用した」

と説明できるでしょうか。

 

この違いこそが、ジョブ型とメンバーシップ型を考える本当のポイントなのだと思います。

 

濱口氏が書かれた本は、「ジョブ型へ移行しましょう」という単純なメッセージを投げかける本ではありません。

むしろ、私たちが当たり前だと思ってきた日本の雇用システムを、一度立ち止まって考え直すための本です。

こんな人におすすめします

  • 「ジョブ型雇用」が結局何なのか知りたい人
  • 人事制度や評価制度に疑問を感じている人
  • 「成果主義」と「ジョブ型」の違いを理解したい人
  • これからの日本企業の働き方を考えたい人

「ジョブ型は正解なのか?」ではなく、

「自分の会社は、何を基準に人を雇い、評価し、処遇しているのか?」

そう問い直すことから、ジョブ型雇用をめぐる議論を始めてみてはいかがでしょうか。

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