あなたは、「老後のために65歳までに 2,000万円が必要」と言われているのを知っていますか?
参議院選挙前ということもあり、大きく報道され、国会でも取り上げられたので、何となく聞いたことがあるのではないでしょうか。
老後のために 2,000万円が必要というのは、金融審議会市場ワーキンググループの「高齢社会における資産形成管理」(令和元年6月3日)という報告書に書かれているのです。
貯められるかどうか不安に思う前に、まず本当に 2,000万円も必要なのかを考えてみましょう。
なぜ、2,000万円も必要なのでしょうか?
金融審議会という公的機関が発表しているのですから、根拠なく言っているわけではありません。第21回ワーキンググループで厚生労働省が提出した資料が 2,000万円という数字の根拠となっています。
その資料は、総務省「家計調査」(2017年)をもとに作られています。
家計調査によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)では、1ヵ月の実収入が 209,198円、実支出が 263,718円で、毎月約 5.5万円の赤字になっているというのです。
毎月約 5.5万円ですから、年間で約 66万円、30年間準備するとして 1,980万円(66万円×30年)もの赤字になるため、65歳までに 2,000万円貯めましょうと言っているわけです。
数字を並べると何となく正しいような気がしてくるのではないでしょうか。
ところで、家計関連調査には家計調査ともう一つ「消費実態調査」があります。
両方とも総務庁統計局が作成しているのですが、家計調査は毎月、消費実態調査は5年に1回行われています。
消費実態調査は家計調査に比べ、調査項目も多く、調査に協力してもらう世帯数も多くなっています。
そのため、消費実態調査の方が、家計の収支の実態や所得及び資産の格差などを世帯属性別に詳しく把握できるといわれています。
そこで、5年前に実施された「平成26年全国消費実態調査」で家計の収支を見てみましょう。
貯めるのは 1,200万円で充分?
二人以上の世帯のうち世帯主の年齢が65歳以上(高齢者世帯)で無職の世帯を見てみると、1ヵ月の収入が 239,545円、実支出が 273,644円で、毎月約 3.4万円の赤字となっています。
毎月約 3.4万円ですから、年間で約 41万円、30年間分準備するとして 1,230万円(41万円×30年)の赤字になります。
同じ総務省が実施している調査ですが、65歳時点で必要な資産は、「家計調査」では 2,000万円、「消費実態調査」では 1,230万円と 770万円も違っています。
しかもこれは平均の数字であって、収入も支出も世帯によって大きく違うはずです。
例えば食料品の支出を見ると、「家計調査」では約 6.4万円、「消費実態調査」で約 6.7万円になっています。
仮に食料品は4万円でやり繰りできると仮定すると、「家計調査」では 864万円((6.4万円-4万円)×12ヵ月×30年)、「消費実態調査」では 972万円((6.7万円-4万円)×12ヵ月×30年)も赤字が少なくなります。
それだけ65歳で必要な資産も少なくなるのです。
2,000万円が必要と報道されたからといって、すぐに疑うことなく信じるのは止めましょう。
政府が発表する統計は各省庁が作成するのですが、これらの統計は省益に沿った発表をしがちです。
発表された内容を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考え解釈し、対策を練りましょう。
そうすれば幸せになれる可能性がずっと高くなります。