弱者の戦略と聞くと、経営学に興味がある人、あるいは博識な人は、ランチェスター戦略を思い浮かべるかもしれません。
今回、ご紹介したい本は直接的に経営戦略について書かれているわけではありません。生物の世界の話です。
しかしながら、経営にも活かすことはできますし、もっと根本的な生き方そのものを考えさせられるすごく面白い本です。
弱者はいかにして生き延びていくのか?
弱者といわれる生物がいかにして生き延びていくのか。それを教えてくれるのが、稲垣栄洋さんが書かれた『弱者の戦略』(新潮選書)という本です。
いろいろ具体的な戦略が書かれていますが、特に印象的な戦略が「ずらす」ということです。何を「ずらす」のでしょうか。
例えば、時間を「ずらす」ことがあげられます。生物の活動する時間を考えてみてください。太陽の出ている昼間に活動する生物もあれば、真夜中に活動する生物、朝早い時間帯に主に活動する生物等々、思い浮かぶのではないでしょうか。
これは天敵のいない時間帯に活動するというすごい戦略だったのです。
同じように場所を考えてみても、水分の少ない乾燥地帯に生息する生物もあれば、湿地帯に生息する生物もあります。
まさに「ずらす」戦略なのです。
「ずらす」戦略が意味することは?
「ずらす」ということは、天敵がいない場所・時間帯を探し出し、その環境に適応しなければなりません。
その場所・時間帯においては、自らがナンバー1なのです。なぜなら、ナンバー1にならなければ、生き延びられないからです。
つまり、生物はどんなに小さくとも、ナンバー1になれるオンリー1の場所・時間帯を持っているといいます。
他の生物と争って負けない、というのではなく、他の生物と争わない場所・時間帯を見つけ出しているといえます。
ナンバー1であり、かつオンリー1になるのが生物の戦略であるならば、人も生物ですので、同じように、ナンバー1になれるオンリー1の場所を探し出すのが一番正しい戦略なのではないでしょうか。
さらに高等な戦略があるといいます。
他の生物と争わない場所こそ、ナンバー1になれるオンリー1の場所とのことですが、争うどころか相手を利用して自らの利益を勝ち取れる戦略があるというのです。
植物(花粉)は虫や鳥に食べられますが、食べられないようにするのではなく、積極的に食べられようとしているというのです。
花粉を食べられるようにするために、蜜や実という魅力的な贈り物を虫や鳥に与えたというのです。
つまり、まず先に相手に利益を与えることで、自分の利益を得るという、双方に利益をもたらす高等な戦略をとっているといいます。
自分の利益のみを考えていませんか。まずは相手のことを思い、相手に与えることから始めませんか。それが自分に還ってくるのではないでしょうか。
「情けは人のためならず」という言葉は、高等な戦略を意味しているのです。