「どうすれば正しく考えられるのか?」
「人間とAIの違いはどこにあるのか?」
現代社会では、膨大な情報に溢れ、私たちは日々、選択や判断を迫られています。そんなときに役立つのが「認知心理学の知見」です。
本記事では、今井むつみ氏が書かれた『人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学』をもとに、印象に残ったポイントを整理しながら、「人が正しく考えるために必要なこと」「AIにはできない人間だけの強み」を掘り下げます。
情報は「取捨選択」して初めて意味を持つ
人間はあらゆる情報を均等に処理できるわけではありません。私たちは無意識のうちに「思考バイアス」によって情報を絞り込み、重み付けをしています。
一見すると「バイアス=悪」と思われがちですが、実際にはこれがあるからこそ、必要な情報に集中できるのです。
たとえば、スマホでニュースを見ているとき、すべての記事を精読することは不可能です。関心や状況に応じて「今必要なもの」を取捨選択する。この無意識のプロセスこそ、人間が効率的に世界を理解するための仕組みなのです。
スキーマが「思考の土台」をつくる
「スキーマ」とは、経験を通じて自分で一般化・抽象化した知識のことです。
たとえば、子どもが「犬」を知るとき、最初は自宅で飼っている一匹を見て覚えます。しかし散歩中に別の犬を見たり、絵本に出てくる犬を見たりするうちに、「四足で、吠えて、人に懐く動物」という共通点を抽出します。これが「犬」というスキーマです。
私たちの思考は、このスキーマなしには成り立ちません。だからこそ、 経験を重ね、自分で抽象化する作業 がとても重要なのです。
言葉は「行間」を埋めて理解するもの
言葉は便利な道具ですが、それだけで世界を完全に表現できるわけではありません。
「わかりやすい説明」を聞いても、人は必ず「行間を埋める作業」を行っています。つまり、話し手が言語化しなかった部分を、自分の知識や経験から補っているのです。
この「行間を読む力」は、単なる情報処理ではなく、人間の柔軟な思考が生み出すもの。ここに、人とAIの大きな違いが見えてきます。
アブダクション推論が「新しい発想」を生む
論理学には「演繹(一般→具体)」や「帰納(具体→一般)」といった推論がありますが、認知心理学ではもう一つ重要な推論があります。それが「アブダクション(仮説推論)」です。
アブダクションの特徴は、正解が一義的に決まらない点です。
- 点を面に広げる「知識の拡張」
- 異なる分野を結びつける「新たな知識の創造」
- 見えない因果を推測する「因果関係の解明」
これらはすべて、イノベーションやクリエイティブな発想の源泉となります。
「直感」は天から降ってこない
私たちは「直感」と聞くと、生まれ持った才能やひらめきのように感じます。しかし認知心理学の視点では、精度の高い直感は 日々の訓練や学びの積み重ねから生まれるもの です。
スポーツ選手が一瞬で最適なプレーを選べるのも、科学者が仮説を直感的に思いつくのも、長年の経験と訓練によって「パターン認識」が磨かれた結果なのです。
直感は偶然の産物ではなく、努力の結晶。これは、多くの人に勇気を与えるポイントでしょう。
AIにはできない「記号接地」
AIは膨大なデータを処理できますが、「意味を理解する」ことはできません。その理由は「記号接地」の問題にあります。
記号接地とは、外界の経験を自分で抽象化・拡張して「知識を創る」ことです。人間は経験を通じて意味を獲得しますが、AIは既存データを使って確率的に出力しているにすぎません。
つまり、 経験から知識を創り出すプロセスこそ、人間の強み なのです。
効率ばかりを求めると「人間の強み」を失う
現代社会では「効率性」が重視されがちです。AIやテクノロジーを駆使して、いかに素早く答えを出すかが評価されます。
しかし、効率ばかりを追求して「自分で考えるプロセス」を省いてしまうと、記号接地を経ないまま知識を借り物として使うだけになります。
その結果、人間が持つ本来の強み――創造性や直感――が失われ、AIに代替されてしまうかもしれません。
まとめ:認知心理学から学ぶ「正しく考える力」
今井むつみ氏の本を通じて浮かび上がるのは、次のメッセージです。
- 情報は取捨選択してこそ意味を持つ
- 経験からスキーマをつくることが大切
- 言葉は「行間」を読む力で理解される
- アブダクション推論が新しい発想を生む
- 精度の高い直感は努力からしか生まれない
- AIには記号接地ができない
- 効率重視だけでは「人間の強み」を失う
つまり、 「経験を通じて自分で考え、知識を創り出すこと」こそが、人生の大問題と向き合う唯一の方法 なのです。
認知心理学は決して難しい学問ではなく、日々の生活に役立つ「考える力の教科書」だと言えるでしょう。
👉 この記事を読んだ方が「自分ももっと経験を大切にしよう」「効率だけに流されず、自分の頭で考えよう」と感じてくれたら、うれしいです。